繭玉本虎鏡 清正和歌集其の壱

日記

皆の者、息災か。

名古屋おもてなし武将隊、加藤清正である。

此れよりは、加藤清正の虎鏡の時間じゃ。

 

和歌

 

此度紹介するは、儂が「清正茶論」でずっと紹介しようとしていた和歌。

第一回目、第二回目で頁を設けつつも時間不足で語る事が出来なかった和歌について話して参りたい。

最も我が情動を揺さぶる歌の一つである。

 

今後、百人一首とは別に我が好みの和歌を紹介する際は「清正和歌集」と名付け綴って参ろう。

此度はその一首目じゃ。

刮目せよ。

 

一首目

 

「涙川 うきなを流す 身なりとも

いまひとたびの 逢瀬ともがな」

(なみだがわ うきなをながす みなりとも いまひとたびの おうせともがな)

 

意味合いとしては、

「流す涙が川のようになってしまうほどの悪名が立ってしまっている私であるが、せめてもう一度だけあなたに会いたい」

となるだろうか。

 

詠み手

 

此の和歌の出典は平家物語。

詠み手は平重衡という者じゃ。

此の者、平清盛公の五男として生まれ幼くして昇殿。

文武に優れ容姿にも恵まれ順風満帆の人生かと思われたが、源平合戦の動乱に巻き込まれ儚く散って行った人物である。

 

その者が武運拙く源氏方に囚われの身となった折に、かつて親しくしていたおなごに送った和歌が此度紹介したものなのじゃ。

敗軍の将としていつ首を切られるかわからぬ日々。

そんな折に募る思いを託した和歌と言えような。

 

実は此の和歌、様々な技巧が凝らされた「凝った和歌」でもある。

 

掛詞

 

かけことばとは即ち、同音異義語を使い文章に複数の意味を持たせる技法。

 

此度使われておる言葉は「うきな」である。

「浮き名」と「憂き名」を掛け、恋多き色男と悪名高き漢と言う意を両立させているのがわかるだろうか。

此れにより、広がりと汎用性を持たしておるのじゃ。

 

縁語

 

次は縁語。

縁語とは即ち、意味の上で縁のある言葉を連ね文章に面白さと深みを持たせる技法。

此処では水に関する縁語が多く使われておる。

涙、川、浮き、流す、瀬などの縁語を使うことでいかに滂沱たる涙であるかを伝えておるのじゃ。

 

本歌

 

さらに本歌取り。

本歌取りとは即ち、有名な古歌の一節を使い奥行きと表現の重層化を生み出す手法。

 

此処では伊勢物語の、

「いづこまで 送りしはしつと 人問はば あかぬ別れの なみだ川まで」

と和泉式部の

「あらざらむ この世の他の思い出に 今ひとたびの 逢うこともがな」

を本歌とし、当時のものであれば此れらの歌の内容も連想させ、受け手の想像力をより刺激する技法も使われているのじゃ。

 

此の三十一文字(みそひともじ)に此れ程の密度の情感が込められておる。

いやはや全く舌を巻くばかりである。

 

総括

 

以上を以て、儂加藤清正が最も好きな和歌の一つの紹介を終わる。

四百年の時を超え現世に蘇り、改めて和歌の面白さに気づかせてくれた儂にとってげに大切な一首である。

皆に少しでも我が高揚と和歌の魅力が伝われば幸甚じゃ。

和歌とは即ち壮大且つ深淵な言葉遊び。

意味さえわかれば「なるほどな」であったり「そうくるか」という面白さに満ちておる。

そう難しく構えず、楽な気持ちで楽しんで参ろうではないか。

 

加藤清正

コメント

  1. 相州姥桜 より:

    清正様、お早うごさいまする。

    涙川の歌、ご紹介下さりありがとうございました。
    電波茶論で拝聴致しました時も感動致しましたが、此度は更に理解が深まったように思います。
    特に本歌取りの件、本歌はどの様な歌なのか気になっておりましたので一つすっきり致しました(笑)
    以前にお話して下さった静御膳の歌の様にほとんどそのままというばかりではないのですね。
    想像力と教養と色々問われる和歌の世界、深いです!

  2. りーくん より:

    清正様
    おはようございます。

    清正様の好きな和歌の一つ、
    平重衡卿の歌を紹介できて良かったですね。
    電波茶論でも紹介してくださいましたが、
    日記帳なら時間を気にしなくてもよいですね(笑)。
    でも、やはり清正様の熱い口調で
    紹介してくださるのがいいです。

  3. MAHALO より:

    ☆★** 殿さま江 **★☆

    めぐりあひて 見しやそれとも 分かぬまに
    雲がくれにし 夜半の月かな

    明日は獅子座の新月ですが
    次の満月を偏に想いつつ一献傾けます
    お盆が過ぎ幾らか凌ぎ易くなりましたが
    どうぞ御無理なさらないでくださいね
    今日も明日も御元気で(*˘︶˘*).:*♡

  4. 氷のかさね より:

    清正さま
    お疲れ様です。
    和歌の紹介ありがとうございます。
    清正さまの解説は、教え方がお上手なのか本当によく理解できます。

    「うきな」は「浮き名」であり「憂き名」なんですね。
    耳から聞く言葉はひとつなのに、文字にすると2つの意味がある。それを瞬時に歌にできるのは、すごい才能だなと思いました。

    関係ないですが、「本歌取り」習った記憶がある!とちょっとだけ蘇った記憶が嬉しくなりました。

    先日痛めたお身体は大丈夫ですか?
    少しでもよくなっているといいのですが。
    明日の盆踊り楽しみにしていますね♪( ´▽`)

  5. 祐衣 より:

    清正様こんばんは!
    清正様からさまざまな和歌を教えていただいておりますが、いつか「お!これは掛詞!?」と技巧的な言葉遊びに自分で気づけるようになったら楽しいだろうなあと思っています(*^_^*)
    味わい深い和歌の世界を清正様からこれからも学ばせていただきます!

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